お菓子の工房 Emile(エミール)高橋秀世

大失敗だった最初の出店。
―お店を始めた経緯を教えてください。
 1989年にエミールを始めましたが、最初はここではなく武蔵藤沢の一方通行の商店街で10坪でのオープンでした。その場所を選んだのは金銭的な理由が主で、妻の実家が石神井だったので西武沿線で場所を探し、飯能の方から条件に合うところを見つけていったら、その武蔵藤沢の商店街だったんです。
 何の縁もゆかりも無い場所だったので、今思えば若さ故の無知だったんでしょうね。店を始める前は、洋菓子研究家の森山サチ子先生のお店で8年間本格的なドイツやスイスの洋菓子を作っていたので、職人としての腕には自信がありました。だから、立地は少々難があってもお客さまは分かってくれて、来てくれるだろうと高を括っていましたが、3ヶ月経っても全くお客さまが来てくれない。近くの住民が来てくれても一度買ってくれたら2度目がない。一番のお客さまは素性を隠して来てくれる同じ商店街の人たちでした。後で知りましたが、商店街の皆さんがうちの店が潰れたら可哀そうだと思ってみんなで協力してくれていたようです。出店場所としては、本当に失敗でした。でも、その商店街の方たちとは縁が今でも続いていて、その時の店主の息子さんなどがたまにこの店に買いに来てくれることもあります。

お客さまの笑顔が見たくて所沢へ。
―この場所に移った経緯を教えてください。

 最初の場所がそんな不利な場所だったので、このままでは本当に店を畳むことになると考えて、一般客向けから結婚式場や企業向けの卸に切り替えたんです。企業向けの卸とは、菓子の製造をしていないブランド会社が、そのブランドを使って菓子を販売する際の製造を請け負うことです。有名な某食器ブランドの菓子を作っていたこともありました。企業向けの卸の仕事は売れ残りが無いし、スタッフも必要最低限で済むので安定した収入が得られます。ただ、ケーキ屋として一番の喜びのお客さまの笑顔が見えないんです。
 この仕事は、お客さまに喜ばれ、ありがとうと感謝をしてもらえる仕事です。そのことが私の仕事のやりがいですし、この仕事をやっていて良かったと思えることです。だから、自分の作ったケーキを直接お客さまにお渡しできるようにと、この場所を見つけ移転しました。ここは新所沢、航空公園、西所沢に囲まれている場所ですので、立地としては問題ありませんし、移ってきて分かったことですが、住民の目が肥えているので私の作るケーキの価値も受け入れてくれました。その分、土地代も高く、スタッフも多く必要になるので、なかなか儲かりませんけどね。妻ともたまに話すのですが、卸をしていたころが一番貯金が出来てました。笑 でも、所沢に来て20年を越しますが、ここに来て本当に良かったと思っています。

地域になくてはならない店に。
―エミールが大切にしていることは何ですか?

 お客さまが来てくださる理由として美味しいのはもちろんですが、「新鮮であること」「安心・安全であること」が重要だと思っています。
 新鮮であるとは、うちで一番人気の石窯秀(いしがましゅー)を食べて頂ければ分かるのですが、出来立て作り立てのものというのは、素材が一番美味しい時に食べられるので時間が経ったものと較べて格段に美味しいです。また、ケーキの色を出すための着色料など以外、余分な添加物や保存料も入れていませんので、小さなお子さんにも安心して食べされられることもお客さまに支持される理由です。

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 ケーキは誕生日や特別な日に食べるものですので、その特別な日を台無しにしてはいけませんし、特別な日をより楽しいものに出来るのもケーキの役目だと思います。だから、私たちが作るケーキを楽しみにして頂いているお客さまの期待を裏切ることなく、いつ食べてもエミールのケーキは新鮮で安心安全で美味しいと思ってもらえるように心を込めてケーキを作っています。そうして特別な日にはエミールのケーキを選んで頂けるようになれば、エミールが地域にとってなくてはならない存在になれると思っています。

これからも変わらないことが一番大事。
―今後の目標は?

 エミールの2号店などは考えていないのかとたまに言われたりするのですが、店をこれ以上大きくすることは考えていません。それよりも今のエミールを続けていくことが一番の目標です。そのためには、この店を続けていってくれる人材を育てることが重要になってきますが、これが難しいです。今は、昔のような職人の世界のような育て方は出来ないので、一人ひとりの個性に合わせて育てていかないといけません。育ってきた環境や考え方が人それぞれで違うので、全ての人が同じ目線で見ることは出来ませんが、エミールの菓子を作る限りは今と同じ水準で出来るようになってもらう必要があります。
 いつもスタッフにも言うのですが、私たちはコンテストに出すケーキを作っているわけではないので100点を目指す必要はなく、お店に並ぶ全てのケーキが常に85点のレベルで維持していくことが大切です。でも、そのためには少しの妥協もせずに、気持ちを込めてケーキを作ってくことが必要ですし、気持ちがよい接客が出来ないと成立しないんです。
 私は「今日より明日がいい」という言葉が好きなんですが、今日が良かったとしても明日の方が更に良い場合もありますし、例え今日失敗しても明日にはきっと良くなる。スタッフにもそう前向きに考えてもらえると良いなと思っています。そうしたスタッフが多くなれば、エミ―ルのケーキは変わらないですし、この地域でなくてはならない存在で居続けることが出来るんだろうと考えています。
 これからもエミールは変わりませんので、エミールのケーキに期待をしてください。

お菓子の工房Emile(エミール)

住所: 所沢市泉町1837-6 [
営業時間: 10:00~19:00  
定休日:火曜日(但し、祝日は営業)
HP:http://emile.cc/
TEL&FAX:04-2923-0234

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